麻雀店でチヤホヤされるために先輩巨乳女を丸裸にして撃破した話①

麻雀店でチヤホヤされるために先輩巨乳女を丸裸にして撃破した話①

わたしに麻雀を教えてくれたのは、お父さんでした。

当時のわたしにとって、それは唯一の親とのコミュニケーションツールで。

いまのわたしにとって、麻雀は――――

――――男にチヤホヤされるための道具です。

進学のために地方から上京!

そこからノーバンで大手麻雀チェーン店へ!!

履歴書持参したら面接レスで即バイト採用!!!

麻雀界隈なんて、まだまだ女子に飢えた業界。

雀荘スタッフに女の子が入ったとなりゃ、客従業員諸共もろ手を挙げて喜ぶこと必至。

さあさあ異性と縁もゆかりもありゃしない男性諸君、

今日から君らの毎日を、仮初のバラ色で染め上げてみせますよ!

オタサーの姫ならぬ雀荘の姫として、蝶よ花よとチヤホヤされ、

わたしは都会での青春を謳歌します!!

そんな期待で無い胸を膨らませた、初出勤日。

しかし、わたしは――――とんでもないものを目の当たりにしたのです。

「あ~。今日から新しく入った子だよね?」

フワフワと弾むような高い声。

ふわふわと弾むような豊満な…………、なんだあれ?

その豊満は従業員用エプロンを押し上げていることから、大きな体積を有しており。

ゆさゆさと音を立てて揺れることから、よほどの重量感を持っていることが伺えます。

わたしの目の前のあれは、いったいなんなのでしょう?

いえ、話には聞いたことがありました。

ただ、わたしの人生で、この日まで、あれに相当する物と出会う経験がなかったものですから、一瞬だけ混乱してしまったのです。

…………巨乳です。

巨乳が服を着て話しかけてくる。

「ここのバイト、女の子ひとりだけだったから嬉しい~。これから よろしくね~」

なんということでしょう。

あろうことか、この麻雀店には、わたしよりも先に女性スタッフが――――巨乳が働いていたのです。

「……よ、よろしくお願いします」

これは、麻雀店でチヤホヤされるためにアルバイトを始めたわたしが。

その目的の障害となる巨乳女を、丸裸にして撃破したときのお話です。

2 

 巨乳は当時、ちょうど20歳。

わたしよりも2つ年齢が上の先輩でした。 実名を出すのも憚れるので、いつもピンクっぽい色の服を着ていたから『ピンクちゃん』と呼ぶことにしましょうか。

 ピンクちゃんは年齢こそ上であるものの、この店で働き始めたのは、およそ半年ほど前。歴でいえば、さほどアドバンテージを取られているわけではありませんでした。

 なんのアドバンテージかと問われれば、もちろん、この店でチヤホヤされるためのアドバンテージです。なんでそんなにチヤホヤされることに拘るのかと問われれば、もちろん、女の子だからです。女の子はみんな、お姫様扱いされることに無償の喜びを憶えるものなのです。

どんなに澄ましたガールも例外はありません。 

これは理屈でなく本能なのですから。

 非モテ男子諸君は、よく憶えておいてください。逆にわたしは、男の子のことはよく知っています。男というものは、皆おっぱいが好きです。さらに大きいおっぱいだと、とっても喜ぶのです。

いえいえ。別に軽蔑なんてしていませんとも。女性らしさの象徴に男性が興味を惹かれるのは当然のことだし、そういった気持ちが存在するから、もてはやされる姫も生まれるのです。そして姫は二人もいりません。しかし、そうなると困ったものです。悲しかな、わたしのおっぱいは、お世辞にも大きいとは言えません。ピンクちゃんと並べると、それはもう『無』と表現しても差し支えないでしょう。

 顔の偏差値のほうは、御察しください。お読みいただいている皆様の想像におまかせしますね。ただピンクちゃんのご尊顔は、はっきり申し上げますと、『めちゃくちゃ可愛い』です。ズルイです。天は彼女に二物を与えておりました。

 おっきいやつをふたつも、です。「それじゃあ、とりあえず今日は初日だし、ラストだけ取れるようになろうか。あ、そうだ、きみ麻雀も打てるんだっけ?」

 そう声を掛けてくれたのは、バイト面接のときもお世話になった店長さん(男性。30歳くらい)。

 面接時にアピールポイントとして、麻雀が打てる旨は、お店に伝えておりました。

「よかったよ、麻雀できる女の子が入ってきてくれて! ピンクちゃんは打てないからさ」

店長は屈託ない感じで、そう言いました。

「え? ピンクさんって麻雀打てないんですか? 麻雀店でアルバイトしてるのに?」

「うちは女の子だったら麻雀知らなくても雇ってるんだよ。レジと接客さえできれば問題ないしさ。そういう店、麻雀業界だったら多いよ」

 ほう? 

 女子の需要が高いことは知っていましたが、そこに麻雀の出来る出来ないは無問題だったとは。

 当時のわたしは驚きましたが、同時にピンクちゃんよりも、もてはやされるチャンスだと思いました。

 なにせここは麻雀店。 

 右を向いても左を見ても、そこに居るのは麻雀好き。 

 そんな彼らとわたしなら、麻雀話に花を咲かせることができるのです。

 牌を通しての対話ができるのです。

 そしてそれはピンクちゃんにはできない。

 古今東西より異性間の良好な関係に、共通の趣味はかかせません!(いちおう、その日から麻雀はわたしにとって『趣味』ではなく『仕事』になるわけですが)

 これなら、あの巨乳とも勝負になる!!

 そう思ってわたしは心を奮わせました。

 チラリと、キッチンに目をやるとピンクちゃんがお客様のフードを作っているようです。

 そんな呑気に焼きそばを作っていられるのも今の内だぞ。

 わたしはそう呟き、初めてエプロンに袖を通しました。

数週間がたちました。

「ラストありがとうございます! 優勝は〇〇様です、おめでとうございます」

 そこには、だいぶ仕事がこなれてきたわたしと、

「ピンクちゃん。最近よくシフト入ってくれるから助かるよ」

「ピンクちゃんも麻雀覚えなよ。俺が教えてあげるからさ」

「え~、無理だよ~。わたし頭悪いもん」

 その後ろで男子スタッフと談笑し、ピョンピョン跳ねてるピンクちゃんがいました。

 潜在的陰キャを発揮し、ロクに男子と話せなかったわたし!!

 案の定と言わんばかりにモテはやされている巨乳!!

 現実はそうそう甘くない!!!

 謎の小ジャンプをかる繰り出される、バルンバルンのおっぱいを背景に!!!

 唇かみしめ、牌を握るメンバー生活の始まりです!!!

 3

麻雀店バイトを始めて、印象的だった局をひとつ。

画像ドラ 5s南3局一巡目 北家

 南3局のトップ目でズルみたいな配牌をいただきました。

 わたしのおっぱいも、これくらいズルかったら良かったのですけれど、まあ嘆いても仕方ありませんね。

 こんな配牌を目にすると、よくお父さんが言っていた言葉を思い出します。

「麻雀の神様ってのは、ひねくれ者なんだ」

「麻雀を好き好きでしょうがなくて、たくさんの時間をかけたやつのことを、逆に嫌いになりおる」

「麻雀はじめたてのド素人が可愛くて仕方ないんだろうの。えげつない手ばっか渡しおるからな」

 いまのわたしは、麻雀の神様なんて信じてはいませんが。

 幼い頃は、そういうもんなんだなと、納得していました。

「じゃあ、麻雀の神様に嫌いになられないように。いっぱい麻雀するのはやめなきゃね」

 なんて、お父さんに言ったのを覚えてます。

 そのとき、お父さんは誇らしそうに、

「もう嫌われとる。だけどもそっからが麻雀は楽しいんだ。神様にケンカ売ってるみたいだからな」

と笑っていました。

 お父さんの言葉が本当なら、冒頭の配牌をいただいたときのわたしは、まだまだ麻雀を好きになり切れてないド素人ということになります。

 まあ、その通りなんですけどね。

 男にモテはやされるためのツールに好きも嫌いもありませんし。

 その手は結局、早々に切った中を鳴かれ、わたしのテンパイを待たずして2,000点くらいの手で流されました。

 人生も麻雀も、なかなか思うようにはいきませんよね。

 わたしが働いていた麻雀店は、都心に店を構えていたこともあり、とても繁盛していたように思えます。

 麻雀初心者向けのルールを採用していたため敷居が低く、そのためか従業員のほとんどが20代前半くらいの男子学生でした。

 それだけなら、わたしの理想とする環境でした。

 意外だったのですが、麻雀店の若い従業員って大人しい性格の人が多いようです。

 アウトローなイメージもある麻雀ですが、今は漫画やゲームからの導入が多く、時代はかわってきているのです。

 うちの店もインドア系の男の子ばかりで、わたしから歩み寄らない限りは、決して話しかけてこないような人ばかりでした。

 結局、歩み寄ることのできない陰キャがわたしなんですけどね。

 逆にピンクちゃんは、フレンドリーな性格でした。良く言えばですけれども。(悪く言った場合の性格は、とてもここでは書けません!)

 お喋り好きなのでしょう、よく従業員やお客さんにどうでもいいようなことで話しかけている現場を見かけました。

 あと心なしかボディタッチが多かった記憶があります。

 そしてその対象は、わたしも例外ではありませんでした。

 むしろ唯一の同性だったためか、かなりの頻度で話しかけられていました。

 タピオカが美味しいとか、どーとか。

 わたしは流行りものに興味があるほうではないので、全然話が合いません。

 それなのに、よくもまあ、毎回懲りずに話しかけてくるものだと、今になって思います。

「ピンクさんってモテますよね」

 ある日わたしは、そんな言葉をピンクちゃんに投げかけました。

「え~?! そんなことないよ~」

「いやいや。他のメンバー(スタッフのこと)と、すごく仲良いじゃないですか。わたしはピンクさんほど、みんなと仲良くなれてません」

「それは、わたしのほうがちょっとだけ先に入ったからだよ~」

 ピンクちゃんは、わたしの言葉を否定することなく、そんな感じの返事をしました。

「どうやったら、ピンクさんみたいに、みんなと仲良くなれるんでしょうか?」

「え~? ん~、別に、無理して仲良くなる必要もないと思うよ? 相性とかもあるし」

 必要あるから、こうして聞いているというのに。

 なんの収穫もありませんでした。

 いえ。本当のことを言うと、そのときすでに分かっていました。

 おっぱいもない、流行りに疎くてダサい、ちょっと麻雀のルールを知っている程度のコミュ障が、麻雀店に入ったくらいでチヤホヤされるなんて、甘い幻想だったのです。

 ましてやピンクちゃんのようなフワフワで、倍満みたいな巨乳の女子が一緒なのです。わたしじゃ引き立て役にも、なっていなかったでしょう。

 でも、認めたくありませんでした。

 わたしには姫になる素質はないなんて。

 そんなの上京したてのおぼこには、受け入れがたいものだったのです。

「わたしもピンクさんと同じくらいあったらなぁ」

 バイトの帰り道。ひとりで小ぶりなそれを見つめ呟きます。

 

 ちょうどそのタイミングだったと思います。

 アイフォンからメッセージアプリの通知が鳴りました。

 友達からの連絡などあるはずもない、この身に。

 いったいどちら様でしょうか?

 そう思いメッセージを見ると―――

『あなたの望み叶えます】

メッセージを送って、あなたの望みを教えてください。

このアカウントが叶えて差し上げます。

※代償は一切いただきません』

――――ただのフィッシングメッセのようでした。

予想どおりではありますが。

そのときのわたしは、よほど傷心していたのでしょうね。

あろうことか、そのメッセージに返信をしてしまったのです。

「大きいおっぱいがほしい」

「お洒落になりたい」

「コミュ力がほしい」

「男にチヤホヤされたい」

原文ママです。

本当バカみたいですよね。

その翌日でした。

アルバイトで本走中のわたしに、こんな手が入ります。

【東二局4巡目】

画像ドラ 8p東二局4巡目 東家

 ごめんなさい。

 正確にこの形だったかは自信がないのですが、

 とにかく清一色のピンズ多面張で、何が出ても倍満でした。

 焦ります。焦ります。

 ただでさえ清一テンパイは待ち確認で必死だというのに、

 

 あろうことかポケットのアイフォンがブーブー鳴り出すのです。

 ホーム画面に現れたのは、通知のメッセージで『その手を捨てれば願いが叶う』の一文。

 昨日のフィッシングのアカウントからでした。

 なにこのメッセージ?

 『その手』ってなに? このチンイツのこと?

 わたしがいま麻雀してるってこと知ってるの??

 気持ち悪い。

 フィッシングじゃなくて、誰かのいたずら?

 名状しがたい恐怖を感じつつも、しっかり待ち確認完了。

 5p-6p-9p待ちです!!

 だけど――――気の迷いとでもいうのでしょうか。

 

 なんででしょうね?

 一瞬だけ思ってしまったんです。

 こんなわけのわからないメッセージでも。

 信じてみたら、何かが変わるのかな? なんて。

 打ち出された9pを、わたしはスルーしてしまいました。

 その後すぐに他家からリーチが入り、無筋を掴んだわたしの放銃です。

 なにやってるんでしょう、わたしは。

 こんなときばっかり、男子スタッフが後ろ見をしていたようです。

「やっぱり待ち分かってなかったかー(笑)」と、煽るように言ってきたのを覚えています。

 麻雀の悪手に関しては、人一倍敏感なのが彼らの特性です。

「あ、はは。む、難しくてわかりませんでしたぁ……」

 目も合わせられないまま、そう返事するわたしは、さぞ醜かったでしょう。

 そんな男に対してでも、話しかけられて嬉しいだなんて思っていたのですから。

 それぐらいでしか、喜びを感じることのできない女なのですから。

 倍満見逃しで、麻雀の神様がお怒りになられたのでしょう。

 その日は、いっぱい負けました。

 悲しかったので、普段は飲まない苦味のあるジュースをコンビニで買って帰ります。

一緒に飲む相手もいないのに、行動がおっさんのそれだなぁ、と思い余計悲しくなります。

 わたしはとても苦ジュースの効果が現れやすい体質なのですが、その日はかなり許容料オーバーの2缶ちょっとを摂取。

 気絶するかのように眠りました。

 …………そしてなのですが。

 ここからの話が、なんというか、ちょっとアレでして。

 というか、さすがにアレすぎなのもあって、今日まで語るのを避けていたというか。

 ごめんなさい、急に。

 訳が分からないですよね?

 えっと、とりあえず、まず結果から言います。

 朝起きたら巨乳になっていました。

 続きます。

前回のあらすじです。

寝て起きたら巨乳になっていました。

なにをふざけたこと言ってるんだと思われるかもしれませんが、

実際にそうなったのだから仕方がありません。

あのピンクちゃんにも引けをとらない、

大きな双丘が、わたしの胸部に現れたのです。

明らかに今までのものとサイズが違いました。

感覚としては4~5段階くらい大きくなったように感じました。

こんな摩訶不思議な現象の最中ながら、

人間とは恐ろしいもので、ひとまず先に行ったのはアイフォンをチェックでした。

これが現代人です。

1通のメッセージ。

『あなたの願いをひとつ成就いたしました』

あのフィッシングメッセのアカウントからです。

信じられないかもしれませんが。

私自身、いまとなっても信じられませんが。

あの不気味なメッセージに書かれていたことは本当だったのです。

昨日、倍満を見逃したわたしの望みを叶えてくれたのです。

麻雀の流れやオカルト論は信じないわたしですが、

このアカウントのことは信じぜざるを得ませんでした。

だって目の前に、おっぱいがあるのですから。

驚天動地。奇々怪々です。

先日のアルコールが残った頭ですから、かなり意識は不鮮明でした。

ですが信じて下さい、全てのブラのサイズが合わないのです!!

仕方がありませんので、その日は厚手のパーカーを羽織って出金しました。

気温が徐々に上がり始めていた時期だったので、店に着くころには汗です。

我慢のかいあってか、見せてはいけないところが主張することは防げていたのですが、おっぱい自体の大きさを隠すことは不可能です。

その日出勤した男性スタッフは全員、出会いがしらわたしの胸部にに目を向け、驚きの表情を見せます。

まあ、仕方のないことでしょう。

先日までの更地だったところに、一夜でドーム球場が建設されたのですから。

しかしそのことについて、スタッフから何か言われたりすることはありませんでした。

いや、まあ何とコメントしたものか分かったもんじゃないですけどね。

男性からしたら、セクハラと騒がれるリスクもありますし、この不思議な現象に触れるのはタブーのような空気となっていました。

 ただひとりを除いては。

「おはようございま~す。……うわっ、え!!?? それ、どうしたの??」

 ピンクちゃんです。

 彼女だけは脳みそとお口が直列で繋がっているのです。

 そのときの、わたしは顔がはちゃめちゃに熱くなって、なんとか振り絞るように出た言葉が、

 「な、なんでもないです……」

の一言。

 さすがのピンクちゃんも「……そっか」とだけ言って、それ以上の言及はありませんでした。

 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。

 憧れの巨乳になったというのに、向けられるのは奇異の目だけです。

 豊胸!? パット増量!? そんな周囲の声が聞こえてきます。

 あの奇妙なアカウントは、わたしの望みを叶えてくれたのかもしれませんが、今の状況はわたしの望むところではありません。

 そもそも巨乳とは、問答無用で周囲の男性を欲情させられるもののはずなのに、わたしが持ってもその効力は発揮されないことが、今日はっきりとわかりました。

 ダボダボのダサいパーカーに、色気のない化粧ですもの。

 女性としての魅力はプラマイマイナスです。わかっています。

 こんなときでも、仕事はしなくてはなりません。

 お客様がお手洗いに行っている間の代走を頼まれました。

 座った瞬間、上家の親からのリーチ。

【東一局 5巡目 東家捨て牌】

 最悪です。

 渡された手にツモ8p。安全牌は皆無でした。

 いや悪くない手です。リーチさえなければ5m、7mと落としていくでしょう。

 しかし今は、お客様の代走。放銃は厳禁です。

 完全にベタオリするなら9sの対子落としでしょうか。

 無筋とはいえ2巡の安全が買えます。

 

 そんな思考の最中、アイフォンの通知が鳴りました。

 デジャブです。もしやと思いロック画面に目を向けると、

『最もダサい一打で望みが叶う』

例のアカウントからでした。

「…………」

 一夜にして、わたしのおっぱいをこんなにしたアカウント。

 不思議な力があるのは明らかです。

 わたしの願いって、巨乳以外になにか願いましたっけ?

 ていうかダサい一打ってなに? ダサいダサくないなんて主観でしょ?

「ねーちゃん、携帯なんか見てないで早く切れよ」

「あ……、ご、ごめんなさい」

 お客様にせかされて、わたしが選択したのは打8pでした。

「お、それだよ! 5,200点」

 その打牌にロンの声が掛かります。

 攻めてるのかオリてるのかわからない『オリ打ち』。

 わたしの打牌はリーチに一発で放銃となりました。

 お手洗いから戻られたお客様に、嫌味の一言をいただき、席を渡します。

 いまの打牌がダサイかどうかはわからないけど、小さな声で「申し訳ありません」とだけ呟くわたしは、ダサかったように思います。

 

 翌日にわたしの家にふたつの荷物が届きました。

 どちらも大きな段ボール箱で、送り主は不明。

 中には流行り物らしき洋服と大量のコスメが入っていました。

本当の父親の顔は、あまり覚えていません。

母が再婚するにあたって、わたしはさぞ邪魔な存在だったのでしょう。

あの人がわたしに話しかけてくることは、罵倒の言葉以外ではほとんどなかったように思います。

そんな母の影響なのか、それとも似た者同士でくっついたのか。

いまのお父さんも、はじめは全く、わたしと口を利いてはくれませんでした。

小学生くらいのときの話ですから、当時のわたしにとってお父さんは『毎日わたしの家にいる知らない男』という認識です。

ただ自分の家で誰も話す相手がいない日々は、子供ながらに辛いものだったと記憶しています。

お父さんはたまに、家で男友達と麻雀をしていることがありました。

広い家じゃありませんから、わたしも、その場をよく目にすることがあったのです。

別に興味があったわけではありません。

少しでも孤独感を紛らわせたいとでも考えてたのでしょうか。

わたしは不意に「それ、なにやってるの?」とお父さんに尋ねてみました。

どうせ答えてくれないと思いながら。

しかし意外なことに、お父さんから返事ありました。

そのときの手牌の1牌を差し出して「触ってみるか?」って。

その日からです。

麻雀の話だけに限ってではありますが、お父さんがわたしに話をしてくれるようになったのは。

相変わらず、母がいる前では話をすることはなかったから、世間的にはきっと『クズ』に分類されるお父さんだったと思います。

天気とか勉強とか学校のこととか、そういう普通の親子がするような会話はなかったけれど、麻雀の話をしてくれるお父さんは、とても楽しそうで、「よっぽど麻雀が好きなんだな」って子供ながらに思いました。

だからわたしは麻雀を覚えました。

わたしのほうからその話をふると、お父さんはとても嬉しそうにするんです。

そのうち、お父さんのご友人ともたくさんお話ができるようになりました。

ひとりぼっちだった家でも、ひとりぼっちでなくなりました。

 わたしにとって麻雀は、男にチヤホヤされるための道具です。

 わたしを――――独りにしないための、道具です。

 ひとえに麻雀だけが、他人とつながれるツールだと思っていましたが、それ以前に、最低限の身だしなみを整えることは必要不可欠だったようです。

 せっかく届いた化粧品を無駄にはするまいと、メイク動画で一生懸命に勉強。

 綺麗な洋服に身を包むと、周囲からの目もだいぶ変わったかのように感じました。

 しかしまだ、男性スタッフからの話かけてもらうよなことは、ほとんどありませんでした。

 ピンクちゃんだけが「最近すっごく、可愛くなったよね~」と褒めてくれて、そのことは純粋に嬉しかったです。

 

【南四局 上家(南家) 10巡目】

 ドラ西

 オーラスでした。

 点数状況は以下のような感じでした。

【南四局 点数状況】

東 対面  …… 34,000

南 上家  …… 11,000

西 わたし …… 46,000

北 下家  …… 9,000

 上家さんの仕掛けは、どう見ても3着確定の仕掛けです。

 わたしの手は和了まで遠く、親が2着目であることも考えると、差し込みをしたほうが良いでしょう。幸い、当たりそうな中張牌は複数持っています。

 上家さんも、それを望んで鳴き始めたところがあるかもしれません。コミュニケーション能力が欠如しているわたしでも、卓上であればそれなりの対話をすることができます。

 いえ、卓上が唯一、誰かと心を通わせることのできる場と言っても過言ではないかもしれません。

 ブーブーと、アイフォンの通知音が鳴りました。

 

『対話を捨てれば願いが叶う』と。

 

 件のアカウントからの通知です。

 わたしはすでに決めていました。

 またこのアカウントからのメッセージが届いたら、それに従おうって。

 上家さんの仕掛けに差すことをやめました。結果、その局は親が満貫をツモ和了り、まくられての終了となりました。

 でも構いません。

 代わりにわたしは、卓外でのコミュ力を手に入れたのですから。

 その日以降、なんだか妙に自分に自信がでてきたわたしは、お客さんや男性メンバーに積極的に話しかけることができるようになっていきました。

 前にも言いましたが、うちの男性メンバーは内向的な人――つまり、陰のもの――が多く、それはわたしと属性が同じということを意味していました。

 ですから、いざ話が軌道に乗ると、会話が続く続く。

 仕事のこと。学校のこと。時事ネタやくだらない冗談。

 案外、話のウマが合うようで、打ち解けてみるとなんてことはありませんでした。

 麻雀の話だけは、口論になるのが怖くて意図的に避けるようにしました。 男性メンバーも麻雀に関しては女性軽視の傾向があるようで、その話はあまりしたがらなかったように思います。 

 

 ただ、望んでいたチヤホヤって感じとはちょっと違い、なんていうか、みんな『ガチのオタク友達』って感じで接してくるのが、いささか不満ではありました。

 

――ピンクちゃんみたいに、『女性』として接してもらえていない。

 出勤日数を重ねるごとに、そういった想いは募っていきました。

 

「最近、ほんとうに雰囲気変わったよね〜」

洗い物が溜まったキッチンで、ふたりきりのとき、ピンクちゃんが、そう話しかけてきました。

「あ、は、はい。わたしも少し、服とか気をつかっていこうかな、って」

「あはは、そうなんだ〜。うん、似合ってる、似合ってる〜」

ピンクちゃんはフワフワな笑顔を掲げます。

こう言った笑い方が男ウケするのかな? と、ついつい観察してしまいました。

すると不意をつくように

「そんなに男からチヤホヤされたい?」

冷たく低い声が聞こえました。

え? いまのはいったい誰が言ったのでしょう。

いえ。たしかにはっきりと、目の前にいる彼女の可愛らしい口から聞こえてはきました。

でも、ふだんのピンクちゃんの声とは似ても似つかないし……。

 冷や汗を垂らすわたしの目の前で、彼女はただただ笑っていました。

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